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2016.07.21 【報告】
第512回関西文学散歩
~織田作之助の、大阪の恩人「五代友厚」~
2016年7月10日(日)終了 <天気:晴れ 参加人数44名>
梶井基次郎「檸檬」文学碑
五代邸跡(大阪科学技術館)

 織田作之助の「五代友厚」は、作者自身が〝未完〟と言い残しているそうだが、僕も佳品ではないと思う。昭和18年、戦時下の検閲が厳しい中、書きたい小説を書けない状況の中で新聞に連載し、発表した作品の一つである。モチーフは「大阪は友厚という大阪の恩人を忘れている」だが、それでこの「恩人」のオンパレードに終始したような作品になってしまっている。織田自身、満足のいく作品では無く、いつか「この恩人」をきちっと描きたいと、〝未完〟としたのだろう。

 それで、本作を文庫本で読めるとは思っていなかったが、連続テレビ小説「あさが来た」でディーン・フジオカが演じて五代が一躍脚光を浴び、織田の『五代友厚』も今に復活した。講師の高橋先生は、織田作之助が日本工業新聞記者だった頃、「全く自信を失ってうろうろしている日々…ふと友厚の銅像を見上げると、私は決然とした。自信に満ちて、昂然と中之島界隈を見下ろしながら、突っ立っているその姿を、私は自分に擬し、そして瞬間慰められた」のが本作を書くきっかけだったと説明された。文庫本に併載されている評論『大阪の指導者』の最後を、織田は「いかなる友厚が今日の大阪に現れるだろうか。いかなる風貌を持った友厚であろうか」と結んでいる。

 この日は炎天下だった。しかし、ビルの影を歩くと秋めいた風も吹いてくる。熱中症に気を付けましょうという言葉に押され、度々水を飲みながら、そんな織田の作品を手がかりに、高橋先生の説明を聞いた後、コースを辿った。明治維新後の大阪の中心だった川口、江之子島、阿波座、靭、肥後橋、とくに五代が大阪と縁を繋いだ初めの頃の足跡ということだった。コース途中の土佐堀川沿いは梶井基次郎が生まれた地、宮本輝の育った地で、宮本の「泥の河」文学碑もあり、合わせて二人の作家の原風景も、この目で見て感じてみようということだった。

 

テキスト:織田作之助『五代友厚・大阪の指導者』(河出文庫)、梶井基次郎『檸檬』(新潮文庫、宮本輝『泥の河・蛍』(新潮文庫)

コース:地下鉄「阿波座駅」ー江之子島文化芸術創造センター(講演)ー大渉橋ー川口運上所跡ー川口教会ー江之子島府庁舎跡ー宮本「泥の河」文学碑ー梶井基次郎生誕地ー花乃井跡ー靱公園(梶井「檸檬」文学碑、五代友厚邸跡)ー加嶋屋跡ー地下鉄「肥後橋駅」(解散)

<報告:田添浩一>

織田作之助賞
織田作之助青春賞
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