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2022.10.27 【報告】
第572回
田辺聖子の恋愛小説を六甲山で読む
2022年9月11日(日)終了 <田原由美子記>
六甲山ビジターセンター
室谷邸記念館

天気:晴れ 参加人数:29名

 北陸の小さな街から18歳で大阪に住むようになった私にとって、初めて聞く大阪弁は強烈な印象を与えた。特に女性同士でポンポンと早口で交わされるそれは、軽快で好ましく聞こえてきたのである。
 田辺聖子さんの小説に魅(ひ)かれたのも、登場人物間に心地よいテンポで交される軽妙酒脱とも言うべき会話が何とも楽しいからだ。特に男が女にアプローチする時、それはまことに効果的に思える。クスッと笑わせて、何だか知らぬ間に術中にはまる。これがいいのだ。女はそうする理由づけが欲しいだけなのだから。

 今回のカルチャーウォークは、実は昨年7月に企画されていたが、コロナでやむなく延期となり、今回ようやく実現した。
 9月とは言え、まだ夏日の11日、阪急六甲駅集合。参加者は29名。
 田辺人気を物語るがごとく女性の参加者が多いように思われる。田辺聖子の小説には六甲、芦屋、そして古い洋館や別荘がしばしば舞台となってあらわれる。
 六甲駅からバスでケーブル下駅に向い、六甲山上駅へ。駅舎は山小屋風で車両の上半分は解放された展望車となっており、赤と緑のレトロなつくりとなっている。
 山上駅からバスで六甲山ビジターセンターに向い、セミナー室で東条さんから六甲の歴史についてお話をお聞きした。六甲山の成り立ちから避暑地として多くの外国人に愛され、そのきっかけは、幕末から明治にかけて日本の実業界で活躍したイングランド出身のアーサー・ヘスケス・グルーム氏が六甲山の開発と景観保持に尽され「六甲山の開祖」と呼ばれるようになったそうだ。広場にはグルーム氏の胸像もあり、折から六甲ミーツ・アート芸術散歩2022も開催中とあって、いくつかの作品も見ることもできてラッキーだった。秋深くなると、薪ストーブでの火入れ式でニュースになる「神戸市立六甲小学校」の前を通り、小寺敬一氏の別荘として建てられたヴォーリズ設計による六甲山荘を訪れた。
 現在はアメニティ2000協会がナショナル・トラスト方式で購入し、公開している国登録有形文化財であり近代産業遺産でもある。
 六甲山荘は外観も内装もレトロで興味深く、担当の方の案内で各部屋を見て回り、詳しい説明を受け、様々な工夫をされている点、とくに厨房とか寝室のベッドの高さ、窓わくなどに細かい配慮が感じられた。その後、園内の自然の散策路をへて室谷邸記念館も訪れた。門廊の部材を活かした建築で、その広場では将来、結婚式を行うプランも考えられているそうだ。その後、徒歩でゴルフ場発祥の地となった日本最古の「神戸ゴルフ倶楽部」の横を通り、ケーブル山上駅に向い、そこで現地解散となった。

 偶然ではあるが、今回のカルチャーウォークの前に、東大阪市にある田辺聖子文学館を訪れてきた。NHK朝ドラ「舞いあがれ!」で話題の東大阪市には、司馬遼太郎記念館と田辺聖子文学館があり、かねてから訪れたいと思っていた。
 田辺聖子文学館は彼女が卒業した樟蔭女子専門学校(現在、樟蔭女子大学)の図書館内にある。彼女の残したたくさんの著書が展示されていて、その中から抜粋された心に残る文章がパネルに表示されていた。
  【笑いというものは一人で笑うときはニセモノである】
  【良質の機智(エスプリ)は沈黙にあることもある】
  【恋は人を策士にし、哲学者にも善人にも仙人にもする】
                         等々

 田辺聖子の『言い寄る』『私的生活』『苺をつぶしながら』の三部作の解説の中で彼女は、「愛の心がわり、人の心のうつろいを親和的な大阪弁で表現したかった。そして人間は可愛気がなくてはいけない。それを書きたくて私は小説を書き続けている」
 と言っている。

 

テキスト:田辺聖子『言い寄る』(講談社文庫)

コース:「六甲」駅=<市バス>=六甲ケーブル下駅//<ケーブル>//六甲山上駅…天穂日命神籬…ヴォーリズ六甲山荘…記念碑台…六甲山上駅//六甲ケーブル下駅=<バス>=阪急「六甲」駅等最寄り駅

<報告:田原由美子>

 

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