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2015.02.13 【報告】
第495回関西文学散歩
~「冥土の飛脚」の新ノ口村と大和街道をたずねる~
2015年2月8日(日)終了 <天気:雨のち曇り 参加人数39名>
善福寺
三輪の茶屋跡

 浄瑠璃・歌舞伎で演じられる<梅川・忠兵衛>の物語。梅川が忠兵衛の実父である孫右衛門の切れた下駄の鼻緒を、自分の着物の端を歯で裂いてすげ替える―雪の中での所作がこの人のことが本当に愛しいのだと、人間の情感が湧きあがる場面です―その心根に、同じ近松の「曽根崎心中」や「心中天網島」とは違った清らかな情愛が充ちていると感じたものでした。

 忠兵衛は公金を梅川の身請けのために使うわけですが、梅川は、そんな自分への純な心に触れたのだと思います。いえ、もともと、孝行なこの青年に魅かれていたのでしょう。逃亡の途中、新口村にいる実父にせめて、その後ろ姿だけでも拝みたいという気持ちは、捨てがたい親への情感で、忠兵衛の人間味では無いかと思いました。大坂から二上山の峠道を越え、大和盆地を突っ切って三輪山まで逃げてきながら、麓の茶屋で長逗留。そのまま行けば長谷、伊勢と、東国への道筋です。なのに、揚句に踵を返して新ノ口村へ戻ったのは「ふと魔が差して引き返したのではなく」、やはり最後の別れに父の姿を…という子の情だったと思われます。

 三輪から新口村へと逆行した二人を、待ち受けていたのは大捕り物。その大和街道の道筋を、私たちは「三輪の茶屋跡」へと向かいました。途中、寄り道したのは神武天皇時代の由緒を伝える古社・十市御縣坐神社で、境内には、伊勢神宮の遷宮を終えて再利用される柱が積まれていました。街道沿いに鎮座する竹田神社はこの辺りの産土神を祀っているようだということですが、大伴坂上郎女の「うち渡す竹田の原に鳴く鶴の間なく時無しわが恋ふらくは」(万葉集巻4-760)の歌碑がありました。この歌は、郎女が娘の大嬢(おおいらつめ)に「元気にしていますか?」という意味で贈った歌だそうで、ここにも親子の情の通い合いが見られます。

 そして「三輪の茶屋跡」は、旅宿竹田屋の敷地跡の隅で顕彰されています。「♪奈良の旅籠屋三輪の茶屋、五日、三日、夜を明し、二十日あまりに、四十両、使い果たして二分残る。鐘も霞むや初瀬山、余所に見捨ての親里の、新口村に着きにけるが…」の名調子、二人の茶屋跡での逡巡が響き渡ってくるようでした。

 

テキスト:近松門左衛門『冥途の飛脚』、三浦しをん『仏果を得ず』、橋本治『浄瑠璃を読もう』

コース:近鉄「新ノ口駅」…善福寺:梅川・忠兵衛供養碑…孫右衛門屋敷跡…十市御縣坐神社…「やわらぎの郷」…竹田神社…「三輪の茶屋」跡…JR「三輪」駅

<報告:中村文子+岩井よおこ>

 

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