風に秋のにおいを感じる快晴の日、8月が台風で中止だったため、2か月ぶりの文学散歩でした。今回のテキストは近親間のタブー恋愛を扱った恩田陸の小説です。講師の田中龍夫先生のお話では、奈良は日本におけるタブーの恋愛――第19代允恭天皇の息子・木梨軽皇子とその妹・軽大郎女(衣通姫)の事件――が伝えられる最初の地で、テキストの『まひるの…』も兄弟間の恋愛がそれまでの人間関係を淘汰して物語が進行して行きます。
人と人とが想い合う気持ちは、まさに時空を超えて繰り返されるのですね。日本史の未知の領域をまだまだ残していそうな奈良、先生の「奈良は日本の歴史の断崖絶壁である」の言葉に奥深い恋愛テーマの萌芽を秘めた地でもあると知り、奈良の懐の深さにいっそう興味をもちました。
一転して晴れやかだったのは、本薬師寺跡の満開のホテイアオイ。今を盛りに青い花が一面に敷きつめられ、心を伸びやかにしてくれます。藤原京も程近い距離、田を覗きながら細い畦道を歩くと、神秘と明朗の間を往き来しているようで、なんだか探検しているような気分になります。京址の回りでは青空に、山というより丘という方がふさわしいような大和三山、畝傍・耳成・天香久山の穏やかな緑がぽっこりと三方に浮き出て映え、不思議な存在感がありました。
この藤原京を選定した持統天皇は、講義では行政に長けた女帝であるとフォーカスされていました。当時の政治の流れや土地柄を聞くにつけ、人間の思考が途絶えることなく続き現在があることに思い至ります。そして奈良の神秘性といえば、やはり伝説です。最後に訪れた鷺栖神社には、第11代垂仁天皇が出雲の神の祟りを解こうとしたとき、その謝罪が真実ならば鷺が死んで落ちるだろうといわれ、鷺は実際に死んだという話があるそうです。真偽はよくわからなくとも、だからこそ想像力が膨らむのが古代の話のおもしろいところですね。1600年以上も前には、神の霊験が本当にあって、空気の重さやにおいが違っていたのかもしれないと思いました。
テキスト:恩田陸『まひるの月を追いかけて』
コース:橿原神宮前駅…橿原神宮文華殿(特別公開・旧織田屋形)…宝物館(自由拝観)…本薬師寺跡…藤原京朱雀門跡…藤原京跡(一部)…鷺栖神社…近鉄「畝傍御陵前」駅(解散)
<報告:木元美咲>