少年Hは、作者の妹尾氏の本名が肇だったからだが、集合駅の鷹取駅は明治30年代には設置されていた古い駅で、この駅を最寄り駅としてH少年は育った。新潮文庫の口絵に「Hの家の周辺地図」が付いていて、この地図を頼りに作品のエピソードの舞台を歩こうという計画のようだ。
「三角公園」は、実際は「大国公園」で形は三角ではなくひし形だった。長田区といえば、阪神淡路大震災の際に大火災に遭って焦土と見紛う有様だったが、火事はこの公園の楠など樹木のおかげで焼け止まりしたそうだ。小さな公園なのに大したものだ。公園内には国土地理院の「復興基準点」の碑や周辺の被災状況写真碑などが建てられていた。
Hのお母さんが通った教会、石垣が亀甲形の石で組まれているので「亀の寺」とも言う満福寺から、「オトコ姉ちゃん」が自殺したガソリンスタンド跡、その向い側辺りにはHのお父さんが戦中勤務した消防署があった。そして、よく遊んだという原っぱ跡から東へ少し入ると、いよいよH家族が暮らしていた家。家屋はもう無いが、そこから5分程の妹尾氏が卒業した長楽小学校は駒ヶ林小学校に名を変えていて、少年時代の行動範囲を現場検証する感でウオーキングした。
作品に八幡宮として登場するのは駒ヶ林神社。本来は高麗ヶ林ではなかったか?鳥居前に「いかなごくぎ煮発祥の地」という石碑が建っており、眼前は海。H少年が「ぼくの浜」と称した砂浜につづく海岸はコンクリートの磯に変わっているが、潮の香りが僅かに匂う。
新長田駅はもう近い。大正通り周辺には「三国史」の登場人物達の石像やブロンズ像があちこちに、Hがよく行った映画館「娯楽館」の跡当りが「三国史ガーデン」で、その向かい側の「三国史ギャラリー」を見学した。そして駅前には、「三国史」を描いた漫画家横山光輝の代表作「鉄人28号」の高さ15.6mの巨大な像が街の復興を見守っていた。
テキスト:妹尾河童『少年H』、横山光輝「鉄人28号」
コース:JR「鷹取」駅…三角公園…イムマヌエル神戸教会…満福寺…(「少年H」の家…神戸市地域人材支援センター(講演)…駒林神社…KOBE三国史ギャラリー…鉄人28号像…JR「新長田」駅
<報告:田添浩一>